初めて投稿致します。
私が勤めている事務所は、ほとんど過払い専門です。
時間のかかる破産や、過払いが見込まれない事件は、
着手金と報酬金相当額を積めない限りほとんど断っています。
できるだけ少ない労力で、大きな利益を上げることを目的にしています。
事務所は過払いだけでかなり儲けていますが、先生はいつも不機嫌です。
それは、業者から返ってきた過払い金を依頼者に返さなければならないからです。
先生は、依頼者に過払い金を返すとき、いつも「もったいない」「もったいない」
と言って不機嫌になります。
パラリーガルは先生が怖いので、いつも萎縮して怯えているだけです。
先生は怒りっぽくなると、勘違いや早とちりでパラリーガルを怒鳴りつけ、
自分の誤解だとわかるとますます不機嫌になり、別のことでまた怒ります。
こうなるとパラリーガルは完全に萎縮してしまって、怖くて近寄れません。
パラリーガルはとにかく頭を下げて、自分のミスでなくても謝り通すだけです。
私の事務所には、先生が1人、パラリーガルが3人いますが、
3人ともいつも先生の顔色をうかがっています。
3人の仕事において最も重要なことは、先生をできるだけ怒らせず、
機嫌を損ねないようにすることです。
情けないことですが、自分の身を守るためのギリギリの戦いです。
それでも、パラリーガルは30分に1回は怒られているので、毎日疲労を溜めています。
私も家に帰ると毎日ヘトヘトで、とても眠いのに、寝付けない日が増えています。
主治医は慢性的な不眠症の症状があるといって、睡眠薬を出してくれますが、
それも効かない日があります。そうすると、もっと強い薬が出されます。
これからどうなってしまうのか、ますます不安が増幅します。
先生は、依頼者に過払い金を返さなければならないことが理解できないと言っています。
先生の口ぐせは、
「払い過ぎた奴に責任がある」
「好きで払ったのに金が戻るのはおかしい」
「俺がいなければ1円だって戻らない」
「何もやってない奴に、何で金を返さなきゃならないんだ」
です。
過払いの報酬で事務所の利益は毎月上がっていますが、
売上が前の月より少しでも減ると、先生の不機嫌は頂点に達してしまいます。
以前、売上が減った月があったとき、先生はパラリーガルを集めて説教し、
こんなはずはないと言いました。
日本中の事務所が過払いで儲けているのに、
何でうちの事務所はこんなに儲けが少ないのかと3人とも怒られました。
パラリーガルは誰から給料をもらっているのかと問い詰められたので、3人は順番に
「先生です」
「先生です」
「先生です」
と答えました。
先生は、まず真っ先にパラリーガルの計算間違いで依頼者に過払い金を返しすぎたのではないかと疑いました。
先生が予想していた利益よりも、実際の利益が全然少なすぎると言うのです。
先生は、自分の計算ではこんなに利益が少ないことは有り得ないと言いました。
それで、3人のパラリーガルに対し、過払い金の返し過ぎがないか、
これまでの事件記録を全部再チェックすることを命令されました。
先生は不機嫌になると、パラリーガルは何をやっても怒られるので従うしかありません。
3人は手分けして、10日くらいかけて、連日終電になるまでこれまでの記録をチェックしました。
パラリーガル3人は、折れてしまった心をつなぎながら自分達の間違いを探しましたが、
やはり間違いはありませんでした。
それで先生はますます不機嫌になり、絶対に何かがおかしいと言いました。
また、これまでの記録をチェックする仕事は、利益が増える仕事ではないので、残業代は出ないと言われました。
先生にとっては、パラリーガルの計算ミスがあれば減給の理由ができて、
人件費が削減できたのに、それもできなかったので、憤慨していたようでした。
それ以来、3人のパラリーガルの間で、上手く数字を調整して、
先生に怒られない程度の報酬の額を出すようにしました。
心身の疲れを溜めて精神が壊れないよう、自分たちの身を守るための工夫です。
先生はだいたい、回収した金額の3分の2くらいを取れれば怒らないので、
報酬のほかに文書作成料、日当、事務費などの実費を計上して、
先生に怒られない額にしています。
私も先生が得た利益の一部から月13万円くらいのお給料を頂いているので、
私のような者を雇って頂いたことの感謝の気持ちを忘れずに、
事務所の利益を増やす仕事に従事しようと自分を励ましています。
でも、心の底にあるのは恐怖心です。
恐怖心で押し潰されてしまわないための戦いです。
どんな状況でも、精神衛生を健康に保つのは、社会人としての最低限の義務です。
ですので、3人のパラリーガルは、先生の機嫌を良くすることだけを考えて、
先生の顔色ばかりをうかがって仕事をすることのないよう、
いつも怯えてビクビクしすぎないよう、自分の身を守っています。
ところが、パラリーガルがこのようなギリギリの自衛手段をし始めてから、
依頼者からの不満や苦情が多く来るようになりました。
戻ってくる過払い金が少なく、報酬を取り過ぎだというのです。
依頼者からの苦情の電話は、パラリーガルが全部聞くことになっています。
先生は絶対に電話に出てくれません。
つまらない苦情に付き合うのは、弁護士の仕事ではないと言っています。
1時間以上の長電話もあります。その間は動悸と冷や汗の連続です。
パラリーガルは電話の受け答えに神経を使いますが、徒労感だけが残ります。
どう考えても依頼者のほうに筋が通っており、嘘をつくのも疲れるからです。
そんな日は、家に帰ってからもずっと動悸がして寝られなくなります。
先生は電話に出ませんが、横でパラリーガルの回答に聞き耳を立てています。
それで、パラリーガルが依頼者に対して上手く説明できないと、
電話のあとで先生からのカミナリが落ちます。
そのような日は、組織人としての責任を果たせなかった自分の情けなさに、
心がズタズタに引き裂かれたまま家に帰るので、
全身を打ちのめされてベッドに倒れますが、やはり気持ちが高ぶって寝つけません。
私はこのような日が続き、ある時パニック障害で呼吸ができず、
窒息しそうになって、本当に死ぬのではないかとの恐怖感に襲われました。
私は本当に危ないと思いました。
他の2人のパラリーガルも、半分うつ病になっているようでした。
以前はしなかった仕事上のミスを連発し、それで先生に大声で怒鳴りつけられて、
ますます自分を追い詰めているといった感じでした。
そんなとき、先生が、依頼者に報告する過払い回収金額を少なめにすれば
報酬で余計な文句を言われることもないのではないかと言いました。
パラリーガル達は、本当に心の底から救われたと思いました。
これで先生の機嫌が悪くなることが減ります。
また、パラリーガルが精神を病んで仕事上のミスを起こし、
先生に迷惑を掛けることもなくなります。
うつ病で死を選んだりして、命を粗末にしたり事務所に迷惑をかけることも避けられます。
そのあとで、また大きな過払いの案件が終わりました。
5社から回収した合計額は約400万円でした。
依頼者には、回収額は200万円であると伝えてあります。
先生からは、依頼者に間違って400万円という数字を口走っていないか、
パラリーガル3人は何回も念を押され、疑惑の目を向けられていました。
特に私は、いつも先生から融通がきかないと怒られているので、
この件でも3人の中で一番疑われていました。
私は、ここで失敗したら自腹で200万円の賠償をしなければならなくなると思い、
絶対に400万円という数字がわからないよう、依頼者対応に細心の注意を払いました。
そして、200万円を基準に報酬を計算しました。
パラリーガル3人は相談のうえ、先生に怒られないであろう金額から逆算して、
先生の報酬を120万円として、依頼者への返還を80万円としました。
この計算書を先生に見せると、いったい何の真似だ、真面目にやれと言われ、
顔を真っ赤にして激怒されてしまいました。
先生の言いたいこともよくわかりました。
俺の力で取った400万円なのに、何で320万円しか取れないのか、
80万円もの大金を損をしないといけないのかということです。
私も先生の下で仕事をしていると、依頼者の損得の考え方よりも、
先生の損得の考え方に近くなってきます。
先生に近くならなければ生きていけないというのもあります。
自分の給料を握られているので、絶対に逆らえないというのもあります。
先生は、
「お前らは80万円の大切さがわかっていない」と言ってパラリーガルを怒りました。
確かに私には、80万円の大切さがわかっていませんでした。
80万円は私の半年分の給料です。
この大金が取れるか取れないかという分かれ目なのに、
私はそれを1円でも高く取る努力をしていなかったのです。
それで、私は報酬計算書を作り直しました。
パラリーガルには残業代は出ていませんが、それを形の上だけで入れて、
事務費として計上しました。
相手方の業者は5社でしたが、訴訟を起こさなかった業者の分も登記簿を取ったことにして、
法務局には5回に分けて登記簿を取りに行ったことにして、1回5万円として、
これだけで日当が25万円計上できました。
先生が裁判所に行った日は、10万円を計上しました。
パラリーガルの引き直し計算書は文書作成料として、
A4の用紙1枚あたり1万円としました。
その結果、先生の報酬は180万円、依頼者への返還は20万円となりました。
私が恐る恐る計算書を先生に差し出すと、先生は少しだけ満足そうに、
「これでいい」と言いました。
私は失敗が取り返せたと思い、ホッとしました。
私は依頼者に電話し、金額は伝えず、過払い金を取りにくるように伝えました。
先生は依頼者を前にして、20万円を渡し、200万円の領収書に署名するように言いました。
先生は、報酬や実費としてなぜ180万円かかったのか、淡々と説明しました。
依頼者は、一瞬驚いたような顔をしましたが、すぐに表情をなくしました。
依頼者は私と同じ小心者でした。
ですから、私には依頼者の考えていることが全部わかりました。
先生の出すオーラが怖くて何も言えないのです。
私はこの時ばかりは、パラリーガルとして、先生が頼もしいと思いました。
私は、この先生の下でクビにならずに適当に生きていけば、13万円の給料はもらえます。
先生の声はヤクザのようにドスが効いています。
もし依頼者が余計なことを言って争えば、大変なことになります。
依頼者にはそれがよくわかるのです。
ほとんどの依頼者が同じ反応をします。
危機を察知して萎縮してしまうのです。
恫喝されていなくても、心理的には恫喝されているのと同じです。
依頼者は、そのうちにペコペコ頭を下げはじめました。
「払いすぎた私がバカだったんです」と言って、先生のご機嫌を取っていました。
先生のほうもお礼を言われて、少しずつ機嫌を良くしていきました。
依頼者は20万円を受け取り、200万円の領収書に署名して、
最後は無理に笑いながら帰っていきました。
人間として一番惨めな姿です。
まるで、いつもの自分達パラリーガルの姿を見せられているようでした。
私は、これで先生の機嫌もしばらく大丈夫だと思いましたが、
先生はすぐに20万円を渡したことがもったいないと言ってイライラし始めました。
それに、先生の380万円の利益のうち200万円は利益として計上されないので、
また月末に利益が上がらないといって不機嫌になることが予想されて、
私も気が重くなってきました。
その3日後、委任が終わったと思っていたその依頼者から電話が来ました。
依頼者は、先生には電話を代わらないでくれと言いました。
依頼者は、私に対し、この3日間は悔しくて寝られなかったと言いました。
話し相手が自分より弱いパラリーガルに変わったとたん、小心者の依頼者の態度が豹変しました。
依頼者は、
「俺が払ったお金なのに、何でお前らが取れるのか」
「お前らは何もやっていないのに、金だけ取りやがって」
「お前らは本当にいい商売だな」
と言って怒りました。
これには、私のほうが悲しくなりました。
私が「何もやっていない」とは、いったい何なのでしょうか。
私が依頼者のためを思って1行1行引き直し計算を入力したのは何だったのでしょうか。
残業代が出ないのに夜遅くまでかかって訴状の正本と副本を作り、
先生からは翌日コピー用紙の無駄をしなかったかと何回も聞かれ、
しなかったと答えると疑いの目を向けられて耐えたのは何だったのでしょうか。
悪意の受益者の判例を調べ、取引の一連と分断の判例を調べ、
特に最近の判例の動向までネットで検索して情報を収集して、
それを先生に報告し、依頼者のために努力したのは何だったのでしょうか。
それで、先生の怒りが私に乗り移りました。
お前はネギを背負ってきたカモのくせに、何寝ぼけたことを言っているのか
と思いました。
そこで、「今の電話は録音してあります。弁護士に伝えます」と言いました。
すると、依頼者は大人しくなって、
「お話を聞いて下さっただけで結構です。申し訳ございませんでした」と言いました。
さらに、「借金がゼロになったうえに20万円を頂いて、私は今幸せです」と言いました。
電話のあと、パラリーガルの3人で、先生にどのように報告しようかと相談しました。
報酬で余計な問題が起こったとなれば、先生がすることはいつも同じです。
パラリーガルが計算間違いをして依頼者に迷惑をかけたとして、
パラリーガルは、依頼者に対しては謝罪文を書き、先生に対しては始末書を書くのです。
私の前任者は、それで減給となり、耐え切れなくなってうつ病を悪化させて
退職したと聞きました。
それで、パラリーガル3人の相談のうえ、先生には
「依頼者が先生への感謝の電話をかけてきました」と伝えました。
先生は満足そうな顔もせず、ただ聞き流していました。
私は、先生の前で嘘をついてしまった恐怖で、しばらく足がガタガタ震えていました。
依頼者から取った380万円のうち、私の日当や文書作成料の名目での計上は、
私の給与の2ヵ月分以上ありました。
もちろん、これは先生の名前で取ったものであり、少し分け前を欲しいなどと考えるのは、
パラリーガルとして失格です。頭に思い浮かべるだけで先生への裏切り行為です。
ですので、私は数字の上だけでも先生の利益に貢献したことに喜びを感じました。
先生は、その1ヵ月くらいあと、せっかく取った過払い金のほとんどが
奥様のバッグや服に変わってしまったと言って苦笑いしていました。
パラリーガルは3人で「お気持ちはわかります」と言って、一緒に苦笑いしました。
このような会話をしている間は、先生に怒られることはないので、少し安心です。
しかし、次の瞬間に機嫌を悪くする危険性もあるので、油断はできません。
長くなりましたが、私の悩みは、
先生が依頼者から預かった過払い金のほとんどを自分のものにしたとき、
パラリーガルは組織人としてどのように心の整理をすればよいのかということです。
私は、過払い金がほとんど返らなかった依頼者に対しては、同情の念は全く湧きません。
パラリーガルは先生に雇ってもらっている以上、先生の利益を少しでも上げるために
その人生を捧げるのが組織人として最低限の義務です。
そして、依頼者に同情するということは、先生の利益が下がることを望むことですから、
お給料を頂いているパラリーガルとしての倫理に反することです。
ですので、多額の過払い金のある依頼者は、ネギを背負ったカモであるという認識を持つのが、
パラリーガルの正しい職務倫理であると思います。
これでいいのでしょうか?
他のパラリーガルの方のご意見をお伺いしたいです。